恐怖症について
限局性恐怖症とは、特定の対象または状況に対して、顕著な恐怖や不安が生じる状態を指します。
DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)では、特定の対象や状況に直面した際に強い恐怖や不安が引き起こされ、それによって回避行動や著しい苦痛が生じ、日常生活や社会生活に支障をきたしていること、これらの状態が6か月以上持続していること、そしてその症状が他の精神疾患や身体疾患によるものではないことが診断基準として示されています。
恐怖の対象としては、動物(虫、犬など)、自然環境(高所、嵐、水など)、血液・注射・負傷、状況(航空機、エレベーター、閉所など)、その他(窒息や嘔吐につながる状況、大きな音、着ぐるみなど)が挙げられます。
近年では、スピーチや電話に対する強い恐怖など、対人場面や社会的状況に関連した恐怖に悩まれる方も少なくありません。
恐怖症の発症要因としては、実際に恐怖対象に関連した危険な体験や強い恐怖体験を経験した場合もあれば、明確な出来事を本人が思い出せない場合もあるとされています。
この点に関連して、近年では恐怖症とトラウマとの関連性が注目されています。
必ずしも生命の危険を伴うような出来事でなくとも、強い恐怖や無力感を伴う体験が、身体や神経系に記憶として残り、その後、特定の刺激に対して過剰な恐怖反応として再現されることがあると考えられています。
そのため、恐怖症は単なる「怖がり」や「考え方の癖」だけではなく、過去の体験に由来するトラウマ反応の一形態として理解できる場合があります。
このようなケースでは、頭で理解していても恐怖が抑えられず、身体が先に反応してしまうという特徴がみられます。
治療の選択肢としては、古典的には
- 曝露療法(恐怖の対象に段階的に接近し、その対象が実際には危険ではないことを学習し直す方法)
- 系統的脱感作法(リラクゼーションを行いながら段階的に恐怖に直面し、不安反応を弱めていく方法)
- 認知療法(恐怖対象に対する考え方や意味づけを見直す方法)
などが挙げられます。
加えて、恐怖反応がトラウマと深く結びついている場合には、トラウマ治療が有効です。(恐怖反応の神経基盤は、PTSD やトラウマ関連疾患でも中心的な役割を果たすことが知られています。)
特に、身体に残存した緊張や防衛反応にアプローチする身体志向の心理療法は、言葉だけでは変化しにくい恐怖反応の軽減に寄与することがあります。
当院では、身体志向の心理療法を含むトラウマ治療を通じて、恐怖症が改善したケースを数多く経験しています。
当院で恐怖症についてご相談いただく際には、現在のお困りごとや症状についてカウンセラーと丁寧に共有していただき、恐怖の成り立ちや背景を整理した上で、認知的アプローチ、曝露的アプローチ、トラウマ志向のアプローチなどを組み合わせながら、個別に治療方針を検討してまいります。